第6回 桜をシンボルとした復興の語り部(2)

■安藤さんの原体験

 桜をシンボルとした福島の復興活動に熱心に取り組む、安藤さん。彼の原体験は、1976年(昭和51年)7月に発生した集中豪雨による青野川の洪水を体験したことです。「しずおか河川ナビゲーション」(静岡県交通基盤部河川砂防局河川企画課)によると、「集中豪雨は最大時間雨量69.5mm、日雨量266mm(南伊豆観測所)に達し、河口から上流約8kmのほぼ全区間において越水が生じ、浸水面積236ヘクタール、浸水家屋879戸にのぼる多大な被害が発生」したそうです。

 <南伊豆を襲った洪水(撮影:安藤さんの祖父)>

 当時小学校の低学年だった安藤さんの自宅も2階まで浸水。鮮明な記憶として刻まれたとのことでした。下賀茂熱帯植物園を訪れた際に、道路を挟んだ向かい側の民家の外壁2階部分に洪水に浸かった爪痕がくっきりと残っていることを、私も自分自身の目で確認しました。


 静岡県は1985年(昭和60年)、河口から約600mの区間において予想される東海地震の津波に備えた堤防の嵩上げ工事に着手し、1998年(平成10年)に完了。南伊豆町では、翌1999年から青野川沿いに河津桜が植樹され、同時に「みなみの桜と菜の花まつり」が始まり、今年22回を数えるに至ったわけです。


 安藤さんにとっては、青野川沿いに咲く河津桜も洪水被害からの復興の証であり、シンボルだったのです。


 2011年3月11日、東日本大震災が発生。安藤さんは被災した東北を助けたいとの思いから、すぐさま寄付をしたものの、はたして、自分の行動が実際にどのように復興の役に立っているのか。目に見えなかったし、実感も乏しく、釈然としない思いを抱いたそうです。同じ思いを抱えていた人たちも少なからずいたと思います。


 ここで安藤さんの抜きん出た行動力が発揮されます。親しい知人たちに声を掛け、東北復興のために立ち上がり、河津桜の植樹活動を始めました。NPO法人として活動していた時期もありましたが、現在は有志による法人格を持たない自主組織として、変わらぬ熱い思いで同活動を牽引しています。いくばくかの寄付はあるものの、ほぼボランティアで8年も続けています。


■「ありがとう」と言い合える関係

 2月25日、「はるか植樹式」の前夜。安藤さんと下田市内の割烹で初めて一献傾けました。お酒を酌み交わしながら、かねてより感じていたことを彼にぶつけてみました。なぜ、そこまで復興活動に熱心に取り組めるのか。何によって突き動かされているのか。


 短いながらもこれまでの交流の中で理解したことがあります。自らの故郷が享受した恩恵への恩返しに似た気持ちが、彼の原動力になっているのではないか、ということです。


 にが笑いし、うそぶくように口を開きました。「斜に構えた人たちから同じようなことを聞かれた時には、『偽善者ですから』と答えているんです」。もうひと押ししてみたところ、「植樹をした現地(福島)の人たちが『ありがとう』と心から喜んでくれるんですよ」。




 わが意を得たり。当たり前かもしれませんが、大切なことに気付き、腑に落ちたというか、腹に落ちました。

 「ありがとう」とは、相手の振る舞いに対する感謝の気持ちを表す言葉です。恩返しの思いを胸に活動を続ける安藤さんも被災地の人たちの姿に勇気をもらい、「こちらこそ、ありがとう」と感謝しています。

 広報とは、事業を共に行う身近な仲間たち(=利害関係者)と良好な関係を築くことです。もっとかみ砕くと、「ありがとう」と言い合える関係を築くことです。企業でいえば、共に働く社員やスタッフ、取引先と互いに「ありがとう」と言い合えているのか。顧客とはどうなのか。

 仕事とは「事に仕える」ことです。誰しも一人で「事」を成すことはできません。個人でも法人でも共に歩む人たちと「ありがとう」と言い合える関係が築けているのか。

 「ありがとう」と言い合える関係は、全ての組織、あらゆる仕事にも通じる原動力となります。

 安藤さんはなぜモチベーションを高く維持したまま、今も変わらず活動を続けられているのか。「ありがとう」という「感謝」のサイクル、「正」の循環が回り続け、そのエネルギーを燃料に走り続けているのだと、妙に納得できました。


 今回の出会いを機に会社としても個人としても、これからも微力ながら、応援し続けます。


 最後に伝えたい、非常に残念なことがありました。地元の伊豆新聞を始めとする報道でご存じの人もいるかもしれません。2月に植樹された「はるか」の苗木が3月下旬に折られ、つい最近、再び折られました。このような試練があっても孤軍奮闘、安藤さんは情熱を失うことなく、走っています。


 より多くの仲間が増え、次世代に受け継がれることを祈念しています。

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